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横浜地方裁判所 昭和40年(手ワ)53号 判決 1965年4月28日

原告 中野肇

被告 合資会社 伊勢守木材商会

代表者無限責任社員 北村邦彦

右訴訟代理人弁護士 谷山部正

同 永峰重夫

同 宇野峰雪

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告は、「被告は原告に対して金二五万円およびこれに対する昭和三六年八月一六日以降完済まで年六分の金員の支払をせよ。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決(および仮執行の宣言)を求め、その請求の原因として

「一 被告は昭和三六年三月一二日訴外鈴木製材所こと鈴木銀作に対して次の要件記載の約束手形一通(以下本件手形という。)を振出した。

金額     二五〇、〇〇〇円

満期     昭和三六年六月一八日

支払地 振出地 共 横浜市

支払場所   株式会社駿河銀行横浜支店

振出日    昭和三六年三月一二日

振出人    被告

受取人    鈴木製材所

二 訴外鈴木製材所こと鈴木銀作は昭和三六年三月一四日本件手形を訴外株式会社中央相互銀行に裏書譲渡し、同訴外銀行は株式会社第一銀行に取立裏書譲渡した上同銀行は同手形をその満期に支払のため支払場所に呈示したところその支払を拒絶されたので、訴外鈴木銀作は同年八月一六日本件手形金を右訴外銀行に償還して同手形を裏書譲渡(期限後裏書、戻裏書)により受戻した。

三 その後、訴外鈴木銀作は昭和三六年八月一六日本件手形を更に原告に裏書譲渡(期限後裏書)し、原告は現にその所持人である。

四 よって、原告は、被告に対して本件手形金二五〇、〇〇〇円およびこれに対する同手形受戻の日たる昭和三六年八月一六日以降完済まで年六分の法定利率による利息の支払を求めるため、この請求をする。」と陳述し、被告の抗弁を争い、

立証≪省略≫とのべた。

被告訴訟代理人(永峰重夫)は、「主文同旨」の判決を求め、答弁として「請求の原因事実はすべてこれを認める。」と述べ、抗弁として

「(一) 原告が自から主張するように訴外鈴木の原告に対する同手形の裏書譲渡は期限後の裏書であるから、被告は次の事由に因り原告に対し本件手形金の支払の義務はない。すなわち、本件手形は被告が訴外鈴木銀作から懇請されて同人宛に振出した融通手形であって、振出の原因関係を欠くのみでなく、その受取人訴外鈴木は被告が本件手形を振出した際交換的に金額を同じくし満期をほぼ同じくする左記約束手形一通(以下見返手形という。)を被告宛に振出し、かつ、右訴外人と被告との間に相互にこれを対価とする合意があり、しかも被告は株式会社駿河銀行に取立委任裏書をし同銀行において満期に支払のため支払場所に呈示したがその支払を拒絶され、その後も右訴外人は見返手形金の支払をしないものである。

金額     二五〇、〇〇〇円

満期     昭和三六年六月一五日

支払地 振出地 共 静岡市

支払場所   株式会社清水銀行静岡支店

振出日    昭和三六年三月一二日

振出人    鈴木銀作

受取人    被告

(二) 仮に右抗弁が容れられないとしても、被告は原告に対して右見返手形債権を有するからこれを自動債権として本件第一回口頭弁論期日(昭和四〇年四月二一日午前一〇時)に原告に対して本件手形債権と相殺の意思表示をしこれに因り同債権は相殺適状の時に遡って消滅に帰したものであるから、被告は原告に対して本件手形金等の支払義務はない。」

と述べ、

立証≪省略≫を認めた。

理由

一、「請求の原因事実」は当事者間に争いがない。

二、そこで、被告の抗弁について案ずるに、先づその(一)について、右事実と被告代表者本人訊問の結果およびこれと乙第一号証(見返手形)中の振出人欄に顕出されている訴外鈴木銀作名下の同人の印影と成立に争いのない甲第一号証(本件手形)中の第一裏書人欄に顕出されている裏書人訴外鈴木製作名下の同人の印影との対照により(民訴三二七条)成立の真正を肯認しうる乙第一号証の一とを綜合すれば「被告の本抗弁事実中、本件手形が被告主張のごとき原因関係を欠く振出にかかるものであり本件手形と見返手形とを相互に対価とする合意が訴外鈴木と被告との間にあったとの点をのぞき、その余の事実」を認定することができこの認定を妨げる証拠はなく、「右除外の事実」は右認定事実と弁論の全趣旨を綜合してこれを推認することができこの認定を左右する反証もないから、本件手形と見返手形との各振出はいわゆる手形騎乗の関係にあって、しかも双方の手形金の支払がなされなかったものというべく、本来被告は訴外鈴木に対して右融通手形の抗弁をもって対抗しうる筋合である(最高裁昭和二九年四月二日第二小法廷判決、集第八巻第四号七八二頁以下の判示の裏面解釈)ところ、本件手形は期限後裏書によって原告が訴外鈴木から取得して所持人の地位に立ったものであることは前判示のとおりであって、期限後裏書の被裏書人に対しては、その裏書の裏書人に対する人的抗弁をもって対抗することができるわけであるから(最高裁昭和二九年三月一一日第一小法廷判決、集第八巻第三号六八八頁以下)、被告は本件手形期限後裏書の裏書人たる訴外鈴木に対する前示人的抗弁をもってその被裏書人たる原告に対抗しうるものと解せられる。このことは、本件手形が前判示事実に徴し戻裏書であることからも肯定さるべきである。されば、被告は原告に対し本件手形金およびこれに対する利息の支払請求を拒否しうる立場にあるから、被告の本抗弁は理由があり、したがって被告の(二)の抗弁につき判断を須いるまでもなく、原告の本件請求は失当たるに帰する。

三、よって、原告の本件請求を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 若尾元)

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